投稿日 : 2021年7月1日 最終更新日時 : 2022年09月07日
【解説資料】売却希望価格は必要か?
M&Aでは初めから売り手の売却希望価格が示されているケースとそうでないケースが有ります。上場会社による売却では示さないケースが多く、事業承継では示すケースも見られます。
考えてみると町で売っているものには必ず売値が付いています。売却希望価格を示した方が良いのでしょうか。
1.町で売っているものには売値が付いている
株式や事業の売却を進めていると多くの買い手から売却希望価格を聞かれます。M&Aでは売却希望価格を示さない案件が多く有り、むしろそれが通常でした。他方で近年は売り手の希望売却価格が明示されている案件もしばしば有ります。
よくよく考えると、スーパー、通販、家電量販店、不動産屋等々、町で売っているものには必ず売値が付いています。普段生活している上では売っているものに値札が付いているのは当たり前です。そう考えると、M&Aでもあっても売却する以上、売値があっても良い気もしてきます。更には売却希望価格を明示することで買い手が集まりやすいという見解も耳にします。
売却希望価格を示した方が良いのでしょうか?
2.教科書的には。。。余り有意義ではない
教科書的には売り手にとって売却希望価格を示す意義は乏しいことが多く、売却希望価格を示す必要はありません。
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I.買い手にとっての価値は売り手には分からない
企業は生き物であり買い手側でM&A後にどのように企業を活かすかによって事業価値は変化します。M&A後の事業価値を見通せるのは買い手のみであり、残念ながら売り手には自社の現状の姿(M&Aが無かった場合の事業価値)が見えるだけで、M&A後の事業価値を見通すことはできません。
そのため、売り手側で売却希望価格を設定するとしても、その妥当性を合理的に社内説明することは至難の業です。売り手側で言えることとしては、「現状の事業価値以下であれば売却する合理性が無い」といったところまでです。
売り手は、買い手に取得価格の提案を求めることで、買い手との対話を通じて適切な売却価格を模索することになります。
II. M&Aのような話は価格から入るのではなく、戦略・事業から入る方がフィットする
M&Aにおける高い安いは表面的な金額で判断するものではなく、事業内容やシナジーとの対比で語られる性質のものです。売却対象が買い手の事業にどう貢献するかは分からない中で売却希望価格が先に出てくると警戒感を感じる買い手もいます。
III. マイナス面:根拠のない価格設定となる
買い手にとっての価値は売り手には分かりません。そのため、売却希望価格を設定するとしても、現状の事業価値を高めに見積もるか、現状の事業価値に適当に価格を上乗せするか、場合によっては本当にざっくり高めに価格設定せざるを得ません。具体的な買い手の顔が見えない程、高めを超えたビーンボールを投げやすくなる心理も相まって、買い手との対話を自ら遠ざける結果になりやすいです。
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勿論、教科書通りが常に正しいとは限りません。売却希望価格を示した方が良いケースも有ります。一概には言えませんが、例えば激しい業績変動や高成長等で評価が難しいケース、特定の金額での取引が重要なケース、協議に時間をかけられない緊急ケースなどです。
3.時代の変化
昨今はM&Aが企業戦略の一つとして定着し、M&Aすそ野が広がっています。個人が零細企業を買収することを推奨する書籍も売れ行きが良いようです(売れ行きが良いから正しい推奨とは限りません)。
これまでは買い手自身で事業価値評価できることを前提に考えていましたが、M&Aを検討する層が広がり、必ずしも自身で事業価値評価できるとはいえない買い手層も出てきました。
また、売り手側でも取り敢えず売れれば良いという発想や、希望条件を活用してマッチングして欲しいとうい期待も生まれています。IT技術の進化やM&Aマッチング会社の活躍などが影響しているのかも知れません。
マッチングを期待する場合、売却希望価格を示した方が効率的です。
4.まとめ
通常は売却希望価格を示す必要性は有りませんが、マッチングを期待する場合は有用です。
売却希望価格の設定に際しては、①買い手にとって根拠の乏しい価格設定とならないか(買い手の話に耳を傾けるつもりが有るか)、②売却価格下限を自らさらすことにならないか(実際よりも高い売却希望価格を設定する場合、そのような売却希望価格に意味が有るか)、③売却希望価格は妥当か、という点に留意が必要です。
なお、上場会社は時代の流れに関わらず、売却希望価格を示すことは基本的には適しません。社内説明や株主説明が難しいためです。
ここまで書くと、買い手は売却希望価格を聞いてはいけないように感じるかも知れませんが、全くそんなことは有りません。当社も買い手の立場で売却希望価格や想定する取引規模をヒアリングすることが頻繁にあります。売却希望価格を具体的に知りたいというよりも、想定する取引金額の桁数を知ることでどこまで真剣に検討すべきか入り口段階で判断・助言することを目的としています。
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