投稿日 : 2022年11月28日 最終更新日時 : 2022年11月28日
【解説】相続税評価額と企業価値(事業承継)
オーナー社長が自身の相続や親族への株式承継に向け相続税評価額を算出するということが良くなされます。相続税評価額の把握は税務対策として有用ですが、実はM&A価格とは別物です。相続税評価額とM&A価格は一見似ているように感じますが、向いている方向は正反対です。
1.相続税評価額
相続税評価額は相続・贈与の時の税額を算出するための評価額です。オーナー社長や創業家一族が相続税をシミュレーションし、相続税対策を検討する際にも計算される数字で、オーナー社長の身近に存在する株価評価と言えます。
身近に存在する株価評価であるため、事業承継の際に参照されることもしばしばです。
2.相続税評価額の計算方法
相続税評価において、取引相場が無い株式は以下の方法で計算されます。
(通常、相続税評価額が議論となるのは親族である同族株主への株式を譲渡するケースです。以下の計算方法は同族株主への譲渡を前提としています。)
1 大会社:類似業種比準方式
2 中会社:類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
3 小会社:純資産価額方式
※類似業種比準方式:対象会社に事業内容が類似する上場会社の配当・利益・純資産の3項目の指標(ルール上で指定)を組み合わせたパラメーターと政策上の減額率を乗じて算出する方法
※純資産価額方式:相続税ベースに直した会社の純資産価額(税効果考慮後)を用いる方法
3.相続税評価額とM&A価値
M&Aでは類似上場会社の株価倍率を参照する類似会社比準法が用いられます。相続税評価額に用いられる類似業種比準方式と似た名称で、計算手法も似ていますが、考え方が異なります。
相続税評価額は課税額の客観性や公平性という課税政策に基づいた計算方法に基づく評価です。適正な価値評価と課税政策のバランスを取った計算設計がなされています。固定資産税評価額と実際の不動産取引価格は別物なのと同様だと考えると分かりやすいかも知れません。計算が正確かは当局にチェックされることになります。
M&Aの際の評価額は適正な取引価格を算出するための計算方法の一つです。基本的に当局がチェックするようなことはありませんが、高い期待を持ち過ぎると買い手は現れないか、去っていきます。M&A市場(多数の潜在的な買い手)の反応を通して間接的にチェックされることになります。
加えていうならば、オーナー社長にとっては相続税評価額は低い方が良く、M&A評価額は高い方が良いので目指す方向性は真逆です。
相続税評価額を参照してはいけない訳では有りませんが、相続税評価額は低く算定されやすい傾向にあります。M&Aの際に相続税評価額を参照すべきかは、一度立ち止まって考えてみても良いでしょう。
4.類似上場会社の類似性
類似会社比準法を採用する際、依頼人とよく議論になるのが類似会社の類似性です。事業に詳しい依頼人の考える類似上場会社とM&A専門家の考える類似上場会社が異なることがあります。
依頼人の考える類似上場会社は事業運営上の類似性です。会社経営の観点からは他社と同じことをしているだけでは生き残れないため会社独自のオリジナリティを発揮しているはずです。違っているのが当然なのです。そのため依頼人にとって類似していると考える企業は多くありません。
M&A専門家の考える類似上場会社は金融市場が考えるざっくりとした類似性です。ある程度大括りにした上で、この業種であればこのくらいの倍率という金融市場の目線を理解することが目的です。もちろん、類似性が高いに越したことは有りませんが、完全に類似した会社は存在しないことからある程度の割り切りが必要となります。
また、金融市場目線のため、依頼人が類似会社と感じる競業企業でも以下のような場合は参照しないことがあります。
・会社全体としては別事業が主体となっているので類似会社とは言えない
・財務状況が大きく異なる
・株式の取引量が少なく又は株価が異常な動きを示しており、株価を信用できない
M&A専門家はある程度割り切って検討しますが、それでも類似会社と言える上場会社が存在しないケースもあります。その場合は類似会社比準法は適用できないということになります。
類似会社比準法が適用できない場合、他のどのような手法で適正な価値を算出すべきでしょうか。M&AにはDCF法、純資産法、年買法などの計算方法が存在しますが、誰が適正性を判断するのか(売り手?買い手?評価会社?M&A市場?)と考えるか次第で結論は変わり、M&Aが進むか否かにも大きな影響を与えます。
※本稿はM&Aに関する解説であり、税務上の専門的なアドバイスを目的としておりません。税務問題を検討されている方は専門の税理士に相談ください。
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