投稿日 : 2022年11月2日 最終更新日時 : 2022年11月04日

【解説】地方のM&A – M&A件数と特徴

M&Aは経済規模の大きな大都市圏で特に活発です。M&A件数は東京が圧倒的です。各地の経済規模を踏まえると引き続き大都市が日本のM&Aを牽引すると考えられます。地方企業においては、地域内に留まらずM&Aが活発な東京や大阪の企業との接点がM&A成立のカギとなりそうです。地方のM&A全体については、最終的には各地のビジネス活動拠点としての魅力度という課題に行き着くと思われます。

1.M&Aは東京で活発

日本のM&Aは大都市圏が中心となっており、特に東京や大阪で活発です。以下の円グラフの通り、日本のM&Aの過半は東京又は大阪でなされています。

図1:都道府県別M&A件数(2019年)

※ 上位8都道府県はGPD上位の都道府県(愛知県、神奈川県、埼玉県、兵庫県、千葉県、北海道、福岡県、静岡県)
※ 売り手・買い手をそれぞれ1件とカウント。同一県内でなされたM&Aは1件のみカウント
出所:インターネット

2.地方のM&A件数

M&Aは企業の経済行為の一つなので、各地の経済規模とある程度連動します。以下は各県の経済規模とM&A案件数の関係性を示したものです。

表1:県内GDPとM&A件数

縦軸:M&A件数(件)、横軸:県内GDP(兆円)

表2:県内GDPとM&A件数(東京、大阪、愛知、神奈川を除く)

縦軸:M&A件数(件)、横軸:県内GDP(兆円)

※ 経済規模の物差しとして2019年度の県内名目総生産(GDP)を使用
※ 東京+GDP上位20都道府県を採用。左記以外は平均値を「その他平均」として示している
出所:総務省データを用いて作成

中小規模のM&Aも含めた網羅的なM&A件数ではありませんが、経済規模とM&A件数は概ね連動しています。点線より上に位置する県が経済規模対比でM&A件数が多めの県ということになります。

3.地方のM&A案件

実際のM&A実務の現場では東京と地方で違いを感じます。一般に語られるM&Aの常識はM&Aの中心地帯である東京や大都市の常識に引っ張られがちです。

しばしば「海外案件は文化のギャップが大きい」と言われますが、国内案件でも両者の常識にギャップがあることは少なくありません。違いを理解しながら上手く進めることが重要です。

当社の経験からは次の2点で違いを感じることが多いです。

特徴1:買い手の探し方

地方企業はM&Aの風呂敷を広げずに、相談先を徐々に広げる傾向があるようです。

全てが文書化・契約書化されていない場合でも、比較的許容度が広いのが暗黙のルールを知っている親密企業・近隣の企業です。また、知らない相手でないので心理的な抵抗感や負担も少ない点も特徴です。

考えようによっては、相手先を絞ることで選択肢を狭めているとも言えます。取引金融機関から地域企業への備忘価格での売却を勧められた企業が憤慨し、努力と工夫をして県外企業に適正価格で売却したような事例も有ります。

特徴2:M&Aの対応スピード

スピード感に違いのあるケースがあります。特に地方企業側をM&A専門家がサポートしていない場合に顕著です。

M&Aでは通常業務に加えて、コミュニケーションや情報開示の業務負担が発生します。地方企業側がIT作業に不慣れな場合やM&Aに時間をさけない場合など、対応が遅れがちです。M&Aは時間との勝負で、時間をかけると会社の状況が変わったり、次の決算をまたいだりして、破談や調査やり直しの恐れを生み出します。

M&Aではスケジュール遅延が生じないよう、事前にスケジュールを組んで、それ通りの推進を目指します。スケジュールを共に作成・合意し、互いの動き方や進捗が見えると動きに弾みが付きます。

4.最後に

大都市の企業においては、地方案件を円滑に進める上で工夫が必要です。Time is Moneyの発想と相手方の事情というジレンマの間で最適なバランスが求められます。コミュニケーション力やバランス感覚が問われるため、言うは易し行うは難しを実感されている方も多いことでしょう。

地方の企業においては、M&Aが活発な東京や大阪の企業との接点がM&A成立の重要なカギとなります。テンポの速い買い手であっても毛嫌いしないことで選択肢の幅が広がります。

地方のM&A全体としてはホームマーケットである地方経済自体が成長すること(又は縮小しないこと)も重要な要素です。地域経済の活性化という壮大なテーマを一気に解消することは簡単ではなく、目先では地域外からのM&A投資を引き込むような政策も課題になるように思われます。

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