投稿日 : 2023年11月30日 最終更新日時 : 2023年12月01日
【コラム】M&A後の統合 – アフターM&A(PMI)
買い手にとってM&Aのゴールは例えば新規領域への進出や商圏拡大で、株式譲渡や事業取得自体は通過点です。ゴールを目指す上ではM&A後の事業運営の検討や準備も必要です。これらの作業はPMI(Post Merger Integration)と呼ばれます。PMIはM&Aの初期段階から徐々に検討することが望まれます。
1.PMIの目的
PMIの目的は、買収後の統合を円滑に進めることでM&Aのゴールを早期且つ確実に達成することにあります。特に上場企業では投資家からのM&A結果に対するプレッシャーもあります。
M&Aには様々なパターンがあり、必要な統合の程度も様々です。規模の経済やコスト効率の改善を意識する場合は一般に強い統合を目指すため、PMIが重要な論点となります。他方で、新規事業などの多角化を目指す場合などは対象企業の良さを壊すことを避けるため、弱い統合を好むケースもあります。
2.PMI方針検討
PMIの負担は企業規模や統合の範囲・深度によって異なります。
異なる企業を一つに統合しようとする場合、営業から販売までの事業フローやそれを支える人やシステム、バックオフィスの統合が検討対象になります。PMI計画に際しては、①あるべき姿、②それに向けた移行方法、③現実的な移行スケジュールと進捗管理方法について検討が必要になります。
売り手側より開示される情報量、買い手側の検討体制等の制約があるため、いきなり全てを検討することは容易ではなく、M&Aプロセスの過程で徐々に検討を深めるのが現実的です。
M&A検討の初期段階(~基本合意前)
- 想定される状況:かなり初期的な情報のみの状況。買い手検討メンバーも案件担当チームのみ
- PMI検討:案件担当チームにてPMIのイメージを持ちながら、現実的な統合イメージやM&Aストラクチャーを初期検討し、仮想定
初期検討段階ではM&Aストラクチャーの検討も必要になります。合併・事業取得(完全統合)、株式取得(親子会社)、持ち株会社方式(兄弟会)など、どのM&Aストラクチャーを希望するかは必要な統合の程度やPMIの難易度も重要な検討要素となります。
M&A検討の本格化段階(DD以降~)
- 想定される状況:DDである程度の情報を得られる状況。但し、細かい情報や機密度の高い情報は得られない可能性がある。買い手検討メンバーは多少拡大
- PMI検討:DDを通してPMIのイメージや課題についても整理可能。買い手が大企業の場合はPMI方針なしでは買収合意の稟議は通らないことが一般的
M&A検討の終盤(最終合意後~クロージング)
- 想定される状況:最終合意をしているため、DDでは得られなかった情報を得ることができ、また、売り手との間で双方向の様々な会話が可能。但し、案件公表されていない場合には、売り手側従業員を巻き込むことに限界あり
- PMI検討:クロージング以降のPMI作業に向けた具体的な検討が可能
3.事業DDとPMI
事業DDでは会社の経営環境・経営方針・事業計画・計画計数、事業運営体制、売上・仕入、事業インフラの状況などのビジネスモデル全般の分析を行います。買い手自身が事業DDを行う場合は、PMIの検討も必要な点を意識しておくと良いでしょう。
また、DDフェーズでは相当程度検討を進めることになります。M&A後の経営やPMI責任者を念頭に置きながら事業DD責任者を決めている買い手企業が多い印象です。
なお、重要案件では冒頭のようにPMIのスピード感や確実な遂行も重視されるため、コンサルを活用してPMIを進めるケースもあります。
4.PMI実行(クロージング以降)
M&Aのクロージングまでは引き続き売り手側が経営権を有します。極端に言えば、アクシデント等でクロージングが中止になる可能性もゼロではありません。そのため、クロージング前に売り手側を巻き込んだPMI作業に入ることは難しく、PMI作業開始はクロージング後になります。
クロージング以降のどれくらいの期間でPMIを終わらせるかはPMIの内容にもよります。大型案件では「100日プラン」のような大枠の計画を設け、短期集中で作業を行い、その後の詳細なPMIを軌道に乗せる方策がとられることがあります。
5.まとめ
PMIはM&A成功のカギを握り、買い手にとっては非常に重要です。M&Aでは取引に関連した検討事項が多くなりますが、取引推進と同時並行でPMIについても検討や準備を進めることになります。
いざクロージングしてからPMIを考えるのではとても間に合いません。M&Aの検討段階からPMIを意識し、DDに際してもPMIも意識しながら行うと良いでしょう。
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