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投稿日 : 2024年5月31日 最終更新日時 : 2024年05月31日

【コラム】M&A・買収時のバリュエーション(企業価値評価)

バリュエーションはM&Aの取引価格を判断する上で重要な参考情報となります。「価値評価」というと誰もが認めざるを得ない一定の価値が存在するような錯覚にとらわれますが、M&A取引における価値は立場や主観によって変わりうる動きのある価値です。その中で一般的に妥当と考えられている評価方法が存在します。

 

1.バリュエーションが必要となる場面

バリュエーションが実施されるタイミングとしては大きく2つに分けられます。

 

・初期検討段階

初期検討段階とは、秘密保持契約締結後、基礎情報が開示された段階です。このタイミングで開示される情報は限定的です。限られた情報でどのようなバリュエーションを行うか、その結果をどのように初期提案に落とし込むかは重要です。

 

売り手側から売値提示があれば検討はしやすいでしょう。ただ、案件規模が大きくなるほど売り手が価格提示をする案件は少なくなります。その分、買い手側の検討力が求められます。

 

情報がないからと言って保守的に評価すると取引機会を逸するかもしれません。無理に高い評価をするのは誠実とは言えません。板挟みの中でどのような提案をするかはケースバイケースですが、一種の提案技術です。

 

また、バリュエーションや提案内容を売り手に示す前には、一般的に社長承認や役員会報告などが必要です。社内稟議への対応も意識しておく必要があります。

 

・最終検討段階

最終検討段階とは、デュー・ディリジェンス後、十分に買収メリットと買収リスクを加味した後の状態です。このタイミングでは重要な要素は全て加味できる状態になっているため、初期段階でのバリュエーションを更新したり、再度バリュエーションを行うことになります。

 

デュー・ディリジェンスの結果次第ですが、財務的な検出事項中心であればそれを直接価格に織り込みます。これは売り手にも分かりやすい調整です。買収メリットなど、そもそもの案件取組意義やシナジーに影響を与えるような検出事項は定性的判断の結果、価格に影響を与えることがあります。これは売り手には分かりにくく、見えにくいですが、実務的にしばしば見られる調整です。

 

また、最終検討段階でのバリュエーションや提案内容を売り手に示す前には、一般的に取締役会決議などの経営判断が必要です。社内稟議に耐えられる検討と準備が必要です。

 

2.バリュエーションの主な方法

バリュエーションには様々な方法がありますが、一般的には下記3つのアプローチが挙げられます。どの方法を採用するかについては専門的判断が必要です。なお、専門家は単純に全ての方法を足して割るという考え方は通常しません(専門的判断を放棄しているのと同義です)。

 

・インカムアプローチ

企業の将来の収益性に基づいてその価値を評価する方法です。企業が将来生み出すと予想される収益やキャッシュフローを見積もり、その現在価値を算出します。

 

将来の収益を最も重視する手法で、M&Aで一般化しつつある手法です。但し、将来事業計画がない場合には採用が困難となります。

【例】DCF法:将来予測されるキャッシュフローを現在価値に割り引くことで企業価値を算出

 

・マーケットアプローチ

市場で取引されている類似企業と比較することで企業価値を算出する手法です。現実の株式市場を意識した評価が可能です。ただし、一時的な市場変動による価格の影響を受けることがあります。

【例】類似企業比較法:対象企業と類似する上場企業の各種指標を参考に株式価値を算出

 

・コストアプローチ

貸借対照表の純資産に着目して価値を評価する手法です。特に資産の物理的な価値や再取得コストを重視する考え方です。

【例】純資産価値法:企業の総資産から総負債を差し引いた純資産を基に企業価値を評価

 

3.上場企業・非上場企業における違い

バリュエーションの方法は上場企業・非上場企業によっていくつかの重要な違いがあります。

 

上場企業

・株式市場に上場しているため、市場が企業をどのように評価しているか直接参照することができます。一時的な市況の変動など、株価の活用方法については留意が必要な点もありますが、それを踏まえるとしても証券市場で形成される株価は非常に重要な情報です。

・開示義務があるため、財務数値やプレスリリースの情報を適時に取得可能です。

・IR資料などで会社の経営方針や将来計画を説明しているケースも存在します。

 

非上場企業

・証券市場で形成される株価が存在しないため、個別に評価が必要です。

・開示義務はないため、個別に財務数値や企業回りの情報を確認する必要があります。

・会社の経営方針や将来計画を個別に確認が必要です。将来の計数計画がない企業もあります。

・所有と経営が明確に分離されていないことが通常です。そのため、形式的な調査だけではなく、企業経営者と信頼関係を構築し十分にコミュニケーションをとることが重要です。評価計算に直接的な影響を与えないとしても、安心してM&Aを行えるかどうかは買い手自身の判断に影響を与えます。

 

4.まとめ

バリュエーションはM&Aの取引価格を判断する上で重要な参考情報となりますが、バリュエーションをするためには適切な情報、専門知識と多角的なアプローチが必要です。

 

更に広い経営判断視点からは、バリュエーション結果を踏まえた上で、買い手にとって幾らであれば買収意義があるか/(機会を逸さずに)買えるかという判断も重要です。

 

バリュエーションが重要である点に変わりありませんが、バリュエーションに満足するのではなく、バリュエーション結果を分析し、経営判断に活用することも重要となります。

 

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