投稿日 : 2024年6月30日 最終更新日時 : 2024年06月12日
【コラム】2種類のM&Aプロセスー相対方式と入札方式
M&Aプロセスには相対方式と入札方式があります。報道などで「XX社が〇〇社買収の入札に参加した模様」などと伝えられるのは入札方式です。一長一短あるためどちらが良いとは一概には言えませんが、売り手側が案件の属性などを踏まえて決定します。傾向として大型案件は入札、事業承継案件は相対方式が多く見られます。
1.相対方式
相対方式は、売り手と特定の買い手が直接交渉して取引条件を決定する手法です。1対1で話し合いながらM&Aを進めるイメージです。取引先や親密先とM&A協議をする場合など、そもそも入札方式がそぐわない場合もあります。
メリット
- プロセスがシンプルで分かりやすいです。
- 情報開示先が限られるため、情報漏洩のリスクが低く、取引を秘密裏に進められます。
- 当事者次第で期日等を柔軟に動かせるため、当事者の負担感は緩和されます。
デメリット
- 競争が少ないため、売却価格の最大化という点でベストとは限りません。
- 買い手の選択肢が限定されるため、売り手の交渉力が制約されることがあります。
- 柔軟である反面、互いの事情に配慮するため、協議期間が長期化しやすい傾向にあります。
2.入札方式
入札方式は、売り手が幅広く買い手を募り、事前に定められた入札スケジュールに従って、複数の買い手から買収参加(入札)し、その中から売り手が1社を選ぶ手法です。全体の枠組み設計や実際の取り回しなどに実務経験が必要なため、通常はファイナンシャルアドバイザーが入札プロセスを設計・運営します。
また、情報開示その他の方法で幅広く買い手を募る場合をブロード・オークション、買い手を有力候補に限定する場合をリミテッド・オークションと呼びます。M&Aは組織に与える影響が大きいため秘密裏に進めるのが通常であり、情報公開して買い手を募るケースは透明性が重要視される公的機関による売却などに限られます。
入札は通常2段階に分かれており、1次入札は基礎情報に基づく初期入札、2次入札はDD結果に基づく最終入札となります。入札の重要な目的は取引条件の最大化にあるため、買い手は2次入札、場合によっては最終契約書段階まで他の買い手との競争にさらされます。
メリット
- 買い手間の競争を促すことで売却価格の最大化を図ることができます。
- 複数の入札者が存在するため、最有力買い手候補と破談したとしても確実に売却できます。
- 一定の期日を設けるためスピード感あるM&Aが可能です。
デメリット
- 買い手にとって負担感が大きく、実際に機能するかは検討が必要です。入札方式に対応するためには買い手側での作業、分析、意思決定それぞれのスピードが求められます。
- 買い手を幅広く募るほど、情報漏れの可能性が高まります。
- 期日に沿って機械的に進めるため柔軟性がありません。
3.M&A方式の違い
競争環境:入札方式は競争原理が働きやすく取引条件の最大化が期待されます。相対方式は特定の買い手との交渉次第です。
スピードと事務負担:入札方式は迅速ですが、負担感が大きく、実際に機能するかは検討が必要です。相対方式は協議期間の長期化には留意が必要ですが、売り買い双方の過度な負担を回避できます。
売却の確実性:入札方式は複数の買い手候補を同時に呼び込むため、売却確度が高まります。
秘密保持:相対方式の方が秘密保持はしやすいです、入札方式の場合は、機密保持も念頭に置きながらどの程度広く買い手を募るか決めることになります。
4.まとめ
M&Aプロセスには相対方式と入札方式があります。売り手がどちらを選択すべきかケースバイケースで、個々の案件ごとに異なります。
本稿では相対方式と入札方式の違いを明確化するためにメリット・デメリットをハッキリさせていますが、実務上はデメリットを最小限とすべく様々な工夫を行うことが通常です。そのため、入札の競争要素を取り入れた相対プロセスや、相対の柔軟性を取り入れた入札プロセスなどもあり得ます。
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