投稿日 : 2023年1月31日 最終更新日時 : 2023年01月31日
【コラム】株式取得と持ち株比率について
M&Aは企業の支配権が移動する取引ですが、常に100%買収とは限りません。買い手が何%の株式を取得するかはケースバイケースであり、株式取得割合は買い手にとって重要な意味を持ちます。
株主の権利は法令等で定められています。
1.持ち株比率と買い手の権利
持ち株比率が100%となる場合
買い手は対象会社を自由に経営可能です。他に株主はいないため、手間暇をかけて株主総会を開催したり、他の株主への配慮する必要がありません。機動的な経営が可能です。
上場企業のオーナー等が100%買収・非上場化することがありますが(MBO)、経営の機動性がその際の理由として良く挙げられます。
持ち株比率が66.7%(3分の2)以上の場合
買い手は対象会社の株主総会の特別決議(定款変更やM&Aのための組織再編などの重要決議)を単独で可決することが可能です。一般にM&Aでは少なくとも3分の2以上の持ち株比率確保を目指します。
少数株主が存在するため、M&A後も株主総会開催の手間暇や少数株主への配慮が求められます。他の株主からの事業協力を期待し、あえて一部株式を買わずに残すこともあります(資本提携や合弁企業)。
持ち株比率が50%(2分の1)を超える場合
買い手は株主総会の普通決議(役員選任や配当)を単独で可決することが可能です。買い手はほとんどの意思決定を行うことができますが、株主総会の特別決議事項を単独で可決することはできません。
買い手以外の株主が特別決議事項に対して拒否権を有している状態となる点に留意が必要です。
その他の少数株主の権限
持ち株比率50%以下の株主には株主総会を単独で可決する権限はありません。会社の重要事項に限定した拒否権や支配株主を牽制する権利に留まります。上場会社では株式売却という手段で株式保有から離脱・換金できますが、非上場会社の少数株主は容易に離脱・換金できない点に留意が必要です。
持ち株比率が33.4%(3分の1)を超える場合:株主総会の特別決議事項を単独で阻止することが可能です(拒否権)
持ち株比率が3%を超える場合:株主総会招集の請求、会社帳簿の閲覧及び謄写請求が可能です。
持ち株比率:1%を超える場合:株主総会の議案提出が可能です。
2.株式取得の事例
近年では以下のような株式取得の公表事例があります。無作為にピックアップしたものであり、特殊な事例でありません。M&Aは100%株式取得とは限らず、2/3以上や50%超にとどまるM&Aも珍しくありません。
100%買収の事例
2022年11月11日、総合リース国内最大手のオリックスが化粧品・健康食品通販大手のDHCを買収すると発表。他の株主からも株を買い取り、完全子会社化を目指す。
2/3以上の買収事例
2022年10月28日、筆記用具大手のパイロットコーポレーションは文具の製造・販売を手がけるマークスグループ・ホールディングスの株式69.7%を取得し、子会社化することを発表。
50%超の買収事例(2/3未満)
2022年10月31日、テレビ東京グループの通信販売会社であるテレビ東京ダイレクトは、ゴルフ用品ECサイト「アトミックゴルフ」を運営するリアルマックスの株式51%を取得し、子会社化した。
3.まとめ
M&Aの際に何%の株式取得ができるのかはM&A後の経営に影響します。
売り手の希望を所与とせず、買い手として何%の取得が望ましいか主体的に検討し、売り手の希望と丁寧にすり合わせることが(お互いにとって良い話とする上で)大事です。買い手にとって100%買収がベストとは限りません。少数株主が存在することのメリット・デメリットを天秤に量りながら、何が望ましいか買い手自身で総合的に判断することになります。
以上では簡便化のため持ち株比率と表現しましたが、会社法では議決権割合を基準に定義されています。持ち株比率という表現に違和感を覚え方は正解です。ただ、細かい話はM&A専門家で整理できますので、実務上は、言葉尻よりも依頼人に大まかなイメージ感を持っていただくことの方が大事です。
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