投稿日 : 2024年4月30日 最終更新日時 : 2024年04月26日

【コラム】意向表明書

M&A取引における「意向表明書」は、買収検討の初期段階において、買い手が売り手に対して提示する提案文書です。提出するタイミングは、デュ―・ディリジェンス(買い手による詳細調査。以下「DD」)を行う前段階です。買い手は初期検討結果を意向表明書として示しつつ、売り手に対してより踏み込んだ会話や調査に進みたい旨の希望を伝えることになります。

 

 

1.「意向表明書」記載項目

売り手は意向表明書として買い手から提示された条件を踏まえ、買い手と基本合意書を締結するか、DDのプロセスに進むか判断します。一般に意向表明書に記載される主な項目は以下の通りです。

 

・買収主体及び買収スキーム

・買収希望価格と算定根拠

・買収資金の調達方法

・買収理由及び買収後の経営方針

・買収後の役員・従業員の処遇

・想定取引スケジュール

・内部稟議の状況、今後必要な稟議及び必要期間

・特に重要と考えるDDポイント又はDD依頼資料リスト

・DDチーム体制 など

 

買い手自身が記載項目を検討することもあれば、売り手から意向表明書の記載内容やフォーマットが指定されることもあります。指定がある場合、買い手は売り手の指定に従うことになります。

 

 

2.記載項目詳細

売り手の立場から見た各項目の概要について記載します。

 

・買収理由及び買収後の経営方針

売却するとは言え、買い手の買収目的や買収後に会社がどのような位置づけになるのかは売り手としても気になります。

 

・買収主体及び買収スキーム

買収主体は買い手自身とは限らず、買い手の子会社や買い手の設立したSPCが買い手となることもあります。

 

株式譲渡か事業譲渡かなどストラクチャーによって検討項目やDD調査項目が変わり得ます。また買収対価も必ずしも現金とは限りません。株式を使う場合もありますので念のため確認が必要です。

 

・買収希望価格と算定根拠

買収希望価格は売り手の関心が高い部分です。また、その金額根拠も売り手としては知りたいところです。

 

・買収資金の調達方法

買い手に現金がない場合、安心して協議を進められません。買い手に十分な手元現金があるか、資金調達の目途は立っているか、資金調達できない場合に提案キャンセルとならないか確認が必要です。

 

・買収後の役員・従業員の処遇

M&A後の従業員の継続雇用や処遇維持は売り手としても気になります。継続雇用や処遇維持について従業員に説明しやすいのか、説明しにくいのか、早めにイメージを持っておくことは有用です。

 

・想定取引スケジュール

売り手の希望スケジュール通りに買い手が対応できるとは限りません。一般に迅速にM&Aを進められる買い手は魅力的であり、買い手のスピード感を理解する上で想定スケジュールを確認しておくことは有用です。

 

・内部稟議の状況、今後必要な稟議及び必要期間

買い手が大企業の場合、稟議に時間を要するケースが多々見られます。買い手の話とはいえ、これまでどのような稟議を経ており、今後どのような稟議が必要かを理解しておくことはM&Aの全体感を理解する上で有用です。

 

・特に重要と考えるDDポイント又はDD依頼資料リスト

DD依頼資料リストが必須かはケースバイケースですが、少なくとも買い手が重要と考えるDDポイントを理解し、しっかり対応できるよう心構えは持っておきたいところです。

 

・DDチーム体制

登用予定専門家名などを確認します。買い手が速やかにDDに入れる状況にあるかを理解するための確認です。

 

・その他:独占交渉権

買い手が意向表明書上で独占交渉権を求めることがあります。これは、一定期間、売り手が他の買い手と同時交渉しないと約束することを意味します。買い手による拘束となりますが、買い手とひざ詰めで協議したいと考える場合には一定程度意味があります。独占交渉権を承諾する場合、基本合意書などで独占交渉権付与を明記することになります。

 

・その他:秘密保持

意向表明書上で売り手に対し意向表明書の第三者開示を禁ずる文言が記載される場合があります。いずれにしても、意向表明書には秘密保持契約書上の秘密情報に該当するため買い手・売り手のいずれも第三者への開示はできません。注意書き的な文言です。

 

・その他:法的拘束力

通常、意向表明書に法的拘束力がない点が明記されます。意向表明書は初期段階の検討結果をまとめたものであり、時間とコストをかけた本格検討(専門家によるDDなど)に移行するかの判断材料であるため、法的拘束力は要しません。

 

 

3.「意向表明書」のポイント

本稿では形式的な点を中心に記述していますが、意向表明書で一番重要なのは内容です。

買い手側は初期検討段階という限られた情報・限られた期間をいう制約条件の中で可能な限りの検討を行う必要があります。

売り手側は十分な検討を促すために分かりやすい情報開示とそのための事前準備が重要となります。また、どのような事項について提案が欲しいかの事前整理できているコミュニケーションが円滑に進むでしょう。

 

 

4.まとめ

意向表明書は買い手に対する初期提案です。記載項目は、見方を変えれば一般的に買い手として初期検討段階で検討すべき項目とも言えます。これらの項目を頭に入れておくと、M&Aの整理や全体感をもった当事者コミュニケーションが可能になります。

 

 

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