投稿日 : 2024年10月5日 最終更新日時 : 2024年10月23日
【コラム】企業業績に対する思い込み(過去vs将来)
M&Aでは将来の企業業績が取引条件に影響を与えます。M&Aの買い手は事業を譲り受けた後(将来)を考えながらM&Aをするためです。
将来の企業業績を予想するための判断材料として、大なり小なり過去の業績を参考にします。ただし、環境変化の大きい昨今においては過去の業績=将来の業績とは限りません。過去の表面上の業績にとらわれず、環境変化が企業業績どのような影響を与えるかを見極めることが重要です。
1.錯覚が引き起こす思い込み
以下の図を見てください。棒の一部が箱で隠されています。どちらの棒を引っ張れば商品を入手できるでしょうか。パッと見た感覚で考えてみてください。
正解はAです。多くの人にはBに見えるそうです。
錯覚が生じる理由には諸説ありますが、脳は瞬時に全ての情報を処理できず、自動推測・自動補正を行っていると言われています。無意識の補正は有難い反面、錯覚や思い込みを引き起こします。
M&Aの局面でも思い込みは危険です。上記の図であれば実際に補助線を引く、M&Aであれば過去の表面上の業績にとらわれず、ビジネスモデルや利益構造をしっかり分析することが重要です。手間を惜しむべきではありません。
以下、思い込みが生じやすい場面を見てみます。
2.過去の業績トレンド
過去5年間、毎期売上高が5%成長している企業があったとします。
グラフの青い部分が実績です。直感的に将来売上(グラフの白い部分)も毎期5%増加をイメージしたくならないでしょうか?
他方で過去5年間、毎期売上高が5%減少している企業があったとします。
グラフの青い部分が実績です。直感的に将来売上(グラフの白い部分)も毎期5%減少をイメージしたくならないでしょうか?
過去の業績トレンドが市場全体の動向や会社自身の競争力を示しているのであれば、将来を占う上で大変参考になりますが、過去の業績数値だけで物事を考えると錯覚に陥りやすくなります。
過去の売上が増加していても、市場成長やシェア拡大に限界がきていたり、規制等が大きく変わる状況であれば、過去売上が伸びているから今後も伸びるとは限りません。過去の売上が減少していても、減少要因であった事業を廃止したり、売却していていれば、過去と同じ割合で減少する訳ではありません。
過去の業績を理解することは有意義ですが、過去の数字だけで将来を見通せるものではありません。
3.直近進行期の業績分析
進行期の業績分析の場面でも錯覚が生まれます。
進行期の業績は通年の数値ではないため、特に季節性ある企業などでは過去の通年決算と単純比較はできないのですが、パッとみたイメージで判断されてしまうことがあります。
例として、以下のような売上の企業Aがあったとします。足元4か月間で売上進捗が4,000です。何となく12か月間で3倍の12,000の売上で着地しそうに見えます。
しかし、季節性ある企業の場合は必ずしもそうではありません。企業Aは毎年12月に売上が大きく伸びます。例えば、外食や居酒屋などが該当します。ケーキ屋や屋形船などもそういった面があるでしょう。
直感的には売上は減少しているように見えたかも知れませんが、実態はそうではありません。
年次PLだけ見ていると錯覚が生じやすく、月次PLを見ないと季節性が分からないという事例です。通期業績だけではなく季節性や月次変動も理解しながら数字を読み解くことが重要です。
4.錯覚や思い込みの回避
思い込みを回避するためには色々な角度から見ることで効果を発揮します。
買い手側の観点からは以下のような多角的な分析が有用です。
- 日々の経営に用いられている事業計画・予算
- 経営者に対する過去業績・将来見通しに対するインタビュー
- 事業上のKPIの特定とトレンド把握
- 予算管理状況
- 経営環境の分析(PEST分析、ファイブフォース分析など)
- 財務数値のトレンド
- 専門家の視点の活用
また、ビジネスDDと財務DDの密な連携も重要です。事業の結果を会計的に表現する財務諸表だけ見ていても、事業(本体)の真の姿や手触り感がでてこないことは良くあります。
5.まとめ
M&Aの局面でも直感は重要であり、直感の重要性を否定するものではありません。何となく違和感あると感じる部分に発見やエラーが隠れていることは良くあります。他方で直感だけに頼るのは危険です。根拠のない思い込みが生じないよう十分な分析と考察をもって意思決定することが必要です。
この点、大企業の稟議システムは良くできていますし、中小企業においても客観的・多角的な分析ができると後悔のない意思決定につながります。
【冒頭の答え】
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