投稿日 : 2023年3月7日 最終更新日時 : 2023年03月07日
【コラム】M&A手法(事業譲渡と株式譲渡)
事業譲渡はM&Aの代表的な手法の一つです。他の代表的な手法である株式譲渡との比較で、事業を譲渡すべきか、株式を譲渡にすべきか、悩まれる方も多いようです。一般に小規模企業は事業譲渡が多く、規模が大きくなるほど株式譲渡が多くなる印象はありますが、個別具体的な状況に応じた適切な譲渡手法の選択が望まれます。
1.事業譲渡とは
事業譲渡とは、会社が事業を譲渡し、譲受人から売却代金を受領する手法です。
(出典:経済産業省「中小M&Aガイドライン参考資料」)
【譲渡人の視点】
ー譲渡人は会社です。売却代金を受領するのも会社です。株主ではありません。
ー会社が全事業を売却した場合、会社は資金を持つだけの抜け殻会社となります。会社清算して株主に事業売却代金などを金銭分配することや資産管理会社として機能させることも考えられます。
【譲受人の視点】
ー会社内外の契約関係を個別に移転させる形になります。雇用契約は従業員の同意、取引契約は取引先の同意がなければ引き継げません。同意取得の際の障害有無や事務作業の煩雑さがポイントです。
ー事業譲渡後、これまでの事業は譲受人と一体化します。人事制度、契約関係など、譲受人と一体化させることで支障が生じるケースが有ります。M&A後の経営に与える影響の有無もポイントです。
【全体的な視点】
ー社内外の取引関係が限られる会社においてはシンプルな手続きとなります。
ー偶発債務は移転しないため、当事者間での議論を避けられます。極力、M&A後の責任を負いたくない譲渡人にとっては有力な選択肢となります。
ー許認可の再取得が必要となる可能性があります。再取得が困難な許認可がある場合には事業譲渡で機能するか慎重に検討が必要となります。
ー不動産関連の取引税や消費税が発生します。多額の不動産を保有する場合は取引コストに留意が必要です。
ー複数事業を営む会社において一部事業だけを譲渡することが可能です。
2.株式譲渡とは
株式譲渡とは、株主が株式を譲渡し、譲受人から売却代金を受領する方法です。
(出典:経済産業省「中小M&Aガイドライン参考資料」)
【譲渡人の視点】
ー譲渡人は株主です。売却代金を受領するのも株主です。
ー譲渡人が100%株主ではない場合、譲受人より100%株式を取得できるような協力や取りまとめを要請されることもあります。
【譲受人の視点】
ー特別な契約を除き、経営権移管に際して従業員や取引先の同意を取得する法的義務はありません。法的義務がないため柔軟性があります。法的義務がないとしても、関係者が安心できるような事前又は事後の説明を行うことはM&A後の経営の観点からは必要です。
ー会社の株主が変わるだけで、会社は従来通りに残ります。人事制度、契約関係などを譲受人側の仕組みと無理に共通化させる必要はありません。
【全体的な視点】
ー社内外の取引関係が多い会社では、事業譲渡よりもシンプルな手続きとなり得ます。
ー偶発債務は会社に残る形で譲受人に移転するため、譲受人側でのデュー・ディリジェンスがその分慎重になり、M&A後の表明保証責任をどうするかの検討も必要になります。
ー事業譲渡に比べると許認可への影響は緩やかです。
ー譲渡されるのは会社の株式のため、不動産関連の取引コストは生じません。
ー複数事業を営む会社の一部事業だけを譲渡したい場合には、多少工夫が必要です。
3.まとめ
M&A手法としての「事業譲渡」と「株式譲渡」はそのメリット・デメリットの比較から入ることになりますが、やや教科書的な内容になりがちな面があります(本稿も同様です)。重要なM&Aであればあるほど、一般論を鵜呑みにはできず慎重な検討が望まれます。
実際の判断に際しては個別具体的なM&Aに即したメリット・デメリットを理解すること、それに加えて、各検討要素(例えば、従業員の円滑な移管、許認可の移管、手間の煩雑さ、税務的な影響)の何をより重視するかという優先順位付けが重要となります。
多少主観も入るため、優先順位に絶対的な結論はありません。検討を担当するコンサルタントや社内担当者が、周囲とのコミュニケーションやそれまでの状況を踏まえた優先順位仮説に基づいて、より適切なM&A手法を模索するというケースが多く見られます。
優先事項を踏まえた結果、「会社分割」などの他のM&A手法が採用されることもあります。
【スクエアコーポレートアドバイザリー株式会社について】
上場会社又は非上場会社の買収・売却・事業承継・出資・統合等に際し、助言及び実行支援を行っております。