投稿日 : 2024年2月5日 最終更新日時 : 2024年02月05日
【コラム】カーブアウト型のM&A
複数事業を営む企業が一部門や一部事業のみを切り離して売却することがあります。会社全体から一部分のみを切り出すことから、「カーブアウト」と呼ばれます。企業が事業ポートフォリオを組み替える上でカーブアウト型のM&Aは有効です。切り出す事業と他の事業との結びつきが強い場合はM&Aの難易度が高まるため、周到な準備が望まれます。
1.カーブアウトとは
カーブアウトとは会社全体から一部事業のみを切り出すことを指します。横文字を使っていますが、「事業切り出し」と同じ意味です。
特に複数事業間で人や設備、インフラなどを共有し、事業間の結びつきが強いカーブアウト型M&Aは難易度が高い場合があります。この場合、周到な準備が必要です。
2.カーブアウト型M&Aのメリット
・事業ポートフォリオの入れ替え
企業内には注力すべき事業もあればそうでない事業もあります。カーブアウトを用いることによって、注力外事業・非中核的事業を売却、全社的な採算性向上が可能となります。事業ポートフォリオの見直しはコーポレートガバナンス・コードにおいて取締役会の重要な監督項目の一つとされています(*1)。
※1コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/index.html (日本取引所グループ)
3.カーブアウト型M&Aの留意点
・実態把握
一般に実態把握の難易度が高めなのがカーブアウト型M&Aの特徴です。子会社の場合のように既存の決算書は存在しないため、売り手自身でも把握に労力を要することがあります。売り手自身が把握できていないのであれば買い手が把握することは至難の業です。
実態把握に際しては、全社からカーブアウト対象となる事業の数値を切り出すことが必要になりますが、人・資産・契約・システムなどが他と一体化している場合も多く、その按分方法や前提の置き方次第で数字が変わる点に留意が必要です。
・共同利用資産・サービス
カーブアウトに伴い、複数事業間で共同利用していた資産・サービスが使えなくなったり、費用負担が増える可能性があります。例えば、カーブアウトで売却された事業はこれまで管理部門が提供していた経理・財務・人事・法務・総務などの管理サービスが利用できなくなります。他の事業部門は一部事業が売却されたことにより本社費用の按分負担が増加する可能性があります。
・ライセンスや許認可
全社として活用しているライセンスや許認可を引き継げない可能性があります。引き継げない場合は、買い手が保有するものを活用するか又は再取得が必要になります。
・従業員
カーブアウトを行うことにより、従業員は元の会社から移籍することになります。移籍に伴い従業員のモチベーション低下や離職が生じてしまう可能性があります。また、従業員の事前同意が必須となる場合もあります。拒否される可能性も念頭に置いた上で、説明やストラクチャー選択の検討が必要です。
4.カーブアウト型M&Aの準備
一般に次のような事項を事前に整理しておくと良いでしょう。
- カーブアウト対象の特定
- カーブアウト対象の具体化。紐つくビジネス・人・資産負債契約・システム等の特定
- カーブアウト対象の財務数値の特定(過去PLや直近BSなど)
- カーブアウト事業のスタンドアローン問題等の課題の検討(売れる状態か否か)
- カーブアウト後の自社への影響(機能不全に陥らないか)
一体化の強い事業であればあるほど財務数値の特定は手間を要します。前提となる事業や数値の把握方法など、コロコロと前提がかわるといつまで経ってもカーブアウト財務数値を把握できずカーブアウトが進まないという事態が生じ得ます。
5.まとめ
企業が事業ポートフォリオを組み替える上で、カーブアウト型のM&Aは有効な手法です。
言うは易く行うは難し。特に他の事業と結びつきが強いほどカーブアウト財務数値の把握は複雑になり、複雑化・煩雑化します。何度も手戻りがあると時間だけが過ぎることになりますし、決算期をまたぐと新たな数字への対処も必要となります。
円滑な対処のためには会社の数字の仕組みを理解している経理部門やM&Aを推進する企画部門などの連携が重要になります。中にはカーブアウトに慣れたM&Aコンサルタントや投資銀行も巻き込んで事前準備するケースもあります。
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