投稿日 : 2024年12月31日 最終更新日時 : 2024年12月17日
【コラム】クロージングに向けた準備
M&Aのクロージングとは買い手がお金を支払い、売り手が株式や資産を譲渡するM&A取引の決済です。クロージングによってM&A取引が完了し、経営権が買い手に移ります。
1.クロージングに向けた準備
クロージングに向けて、例えば以下のような準備が必要になります。M&A契約書で明確に定められているものもありますし、そうでないものもあります。
■ 支払準備
買い手側でのお金の準備です。手元資金で払える場合、時間は要しません。銀行から資金調達が必要な場合は相応の期間が必要になります。
■ 資料準備
対象会社の規模にもよりますが、一般に役員退任・新役員就任、株主変更などの資料準備が必要です。資料によっては押印も必要であり、資料準備に一定の期間を要します。
■ 対象会社での精算・治癒・組織再編
対象会社でのグループ会社との取引精算、DDで発見された重要事項への対応(治癒)、譲渡対象事業と対象外事業の切り分け(組織再編)などの事前準備が必要なことがあります。会社法に基づいた組織再編を行う場合は法で定められる手続きと期間が必要になります。必要な準備はM&A合意に定められるため、それに従うことになります。
■ 主要取引先からの同意取得
対象会社が株主変更後も主要取引先(得意先、仕入先、外注先、銀行等)と取引を継続できるよう取引先から取引継続の同意を取得することがあります。取引先との取引契約で同意や通知が義務付けられている場合は必須となります。
■ 公正取引委員会からの承認取得
一定以上の会社が一定以上の規模の企業を買収する場合、公正取引委員会による競争法上の審査が必要です。公正取引委員会の承認を得た後にM&A実行になります。
■ 事業引継ぎ準備
買い手側での事業運営の引継ぎ準備です。クロージング前にできるアクションは限られますが、クロージング後に何をするかは事前に検討し、売り手ともすり合わせておくことが望まれます。
2.クロージング準備期間
一般には次の理由から極力速やかにクロージング準備を終わらせることが望まれます。
Ⅰ. 売り手の早期入金希望
売り手は一般に早期の対価受領を希望します。
Ⅱ. 対象会社の経営権の不安定性
クロージングまで売り手側はM&A契約によって重要な意思決定は買い手の事前承諾が必要になります(コベナンツ)。売り手の意思決定は買い手に縛られており、経営権の半分が売り手、半分が買い手にあるような状態です。経営権が中途半端な状態が長く続くのは対象会社にとって望ましくありません。
Ⅲ. 対象会社の状況変化
対象会社の状況は刻々と変化します。売り買い双方に想定外を生まないためにはM&A合意をしたら速やかにM&Aを実行するのが基本です。
速やかに準備を終わらせるためには、①売り手と買い手のコミュニケーションと協力体制、②準備手続きの進捗管理、が重要です。
クロージングのための準備期間はケースバイケースです。クロージングに向けた準備にどれくらい期間が必要かでクロージング予定日を決定することが一般的です。どのくらいの準備期間を設けるべきか判断が難しい場合は、専門家に相談すると無理ない日程で進められるでしょう。
3.確実なクロージングに向けた留意点
M&Aの最終契約ではクロージング条件が定められていることが一般的です。全ての条件が整わなければ、取引が延期または中止される場合もあります。
Ⅰ. クロージング進捗管理
クロージング準備は多岐にわたることが多いです。要対応事項を網羅的に把握の上、期日やスケジュールを設けた上で一つ一つ確実に対処する必要があります。
なお、買い手に比べて売り手側での対応事項が多いことが一般的です。特に売り手側では漏れが生じないよう留意が必要です。
Ⅱ. 相手方との情報共有
クロージング準備は売り手と買い手が連携しながら進める事項も多くあります。随時互いの進捗状況を示すことで信頼関係が生まれ、相談事もしやすくなるでしょう。
Ⅲ. プレクロージング(準備状況の最終確認)
クロージング当日に資料にミスや漏れが見つかった場合、予定日にクロージングできなくなります。クロージング日の一発勝負は危険です。
通常、クロージングよりも1-2週間前に最終確認を行います。これはプレクロージングと呼ばれます。事前に資料を相互確認していれば、クロージング当日にミスや漏れが見つかることがないため安心です。
Ⅳ. クロージング会議
クロージング当日は買い手にとっては送金、売り手にとっては株式譲渡という重要資産を譲り渡すことになります。必要な確認を行った上で譲渡できるよう、当日の流れや同席者について事前に確認しておくことが通常です。
クロージング時にセレモニー的なものを行うケースもありますが、必須ではありません。当事者の意向で淡々と行うことも多いです。
Ⅴ. 専門家の活用
経験あるM&Aアドバイザーや弁護士はクロージングにも慣れています。トラブルになりそうな場合や不安がある場合は相談してみると良いでしょう。
4.まとめ
M&A合意をしても自動的にクロージングできる訳ではなく、クロージングに向けた対応が必要になります。クロージングはフォーカスが当たることの少ない局面ですが、実務上はとても重要な局面です。M&A合意でほっと一息つきたくなるところですが、クロージングまで確実に進める意識が重要になります。
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